働き方・キャリア2026-08-04監修:山根一城(株式会社ポテンシャライト)

外国人の転職における給与交渉 — 提示額を引き上げる伝え方

この記事の要点

「日本語がまだ完璧じゃないので、提示された金額でそのまま受けようと思います」と、面談の場で肩を落とす方を、僕はこれまで何度も見てきました。

提示額は交渉の出発点であり、決定ではない。僕はそう考えています。もちろん、何でも要求すれば通るという話ではありません。ただ、企業側が最初に出す提示額には調整の余地が残っているケースが多く、その余地を使わずに終えてしまうのは、外国人材にとって特にもったいないと感じています。この記事では、なぜ外国人材が給与交渉で不利になりやすいのか、どのタイミングで動けばいいのか、提示額を引き上げるための材料の作り方、実際の相談現場で見てきたケースの違い、そして今日からできる実務的な進め方まで、体感を交えてお伝えします。

1. なぜ外国人材は給与交渉で不利になりやすいのか

僕の相談経験で言うと、外国人材が給与交渉に踏み出せない理由は大きく2つあります。1つは言語的な壁で、交渉というやり取り自体を「対立」だと感じてしまい、遠慮が先に立つケースです。もう1つは情報の非対称性で、同じ職種・同じ経験年数の日本人材がどのくらいの提示額を受けているかという相場感が入ってきづらいことです。日本語力がある方でも、この相場感の欠如だけで交渉を諦めてしまう場面を何度も見てきました。さらに、日本の雇用慣行に馴染みが薄いことも影響します。日本企業の多くは「提示額=ほぼ確定」という空気を醸し出しますが、実際には等級の範囲内で調整の余地を残していることが多く、この空気を額面通り受け取ってしまうと、動く前から諦めてしまうのです。実際に僕が同席した面談でも、担当者から「提示額はあくまで一次案です」という言葉が出た直後、候補者の方が驚いた表情を見せたことがありました。企業側の言葉と、候補者側が受け取っている印象の間には、思っている以上の差があるというのが僕の体感値です。逆に言えば、相場感と伝え方の型さえ持てれば、言語力の差はそこまで大きな壁ではないと考えています。

2. 交渉のタイミング:オファー前とオファー後、どちらが有利か

交渉が最も動きやすいのは、オファー(内定)提示の直後、まだ条件が口頭・書面レベルで確定していない段階です。この段階では企業側も「条件を調整して合意形成する」という前提で臨んでいるため、こちらから条件確認の質問を出すこと自体が自然に受け止められます。一方、オファーに一度サインしてから、あるいは入社後に給与を引き上げてほしいと持ちかける再交渉は、成功率が体感的に大きく下がります。企業側の予算や等級の枠組みが確定した後だと、個別対応がしづらくなるためです。もし交渉するなら、提示を受けた直後、できれば返答期限の1〜2日前までに動くのが現実的だと僕は考えています。目安として、オファー受領から24時間以内に「検討する材料として確認したい点がある」と一報を入れ、48時間以内に具体的な希望レンジを伝える、という2段階の進め方をお勧めしています。急に高額な要求を突きつけるより、まず質問から入るほうが企業側も心理的に受け止めやすいです。返答期限が短い場合は、期限そのものを1〜2日延ばしてもらう相談も、交渉の第一歩として有効だと感じています。

3. 提示額を動かす3つの材料と相場の目安

交渉で説得力を持つ材料は、僕の体感では大きく3つに分けられます。1つ目は職務経験の具体性で、「何を」「どのくらいの規模で」「どんな成果につなげたか」を数字で語れるかどうかです。2つ目は日本語力で、業務で使う日本語のレベル(口頭でのやり取りか、文書作成まで含むか)を職務内容とセットで説明できるかどうかです。3つ目は市場相場で、同職種・同経験年数の提示額のレンジを把握しているかどうかです。このうち3つ目は個人で調べるのが難しいため、エージェントや厚生労働省「賃金構造基本統計調査」のような公的統計を補助的に参照するのが現実的です。

職種カテゴリ交渉余地の目安(体感値)材料になりやすいポイント
ITエンジニア(実務経験3年以上)提示額の5〜10%程度使用言語・担当フェーズの具体性
製造・技術職(技能実習からの移行含む)提示額の3〜5%程度安全管理・品質管理の実績
営業・事務系(技術・人文知識・国際業務)提示額の3〜7%程度日本語での商談・文書作成レベル
特定技能から正社員登用時基本給テーブルの範囲内が中心資格・検定の取得、勤続年数

この表はあくまで僕が相談を受けてきた中での目安値であり、業界統計として断定できる数字ではありません。ただ、職種によって交渉のレバーが違うという構造自体は、多くのケースで共通していると感じています。同じ「経験3年」でも、ITエンジニアは技術要件が明確な分だけ交渉のロジックを組み立てやすく、逆に特定技能から正社員へ移る場合は、企業側の等級テーブルがあらかじめ設計されているため、個別交渉より資格取得や勤続年数の積み上げのほうが結果的に効くというのが実感です。営業・事務系の場合は、商談の場数や文書作成の実績を具体的な件数で示せるかどうかが、交渉余地の幅を決めていると感じています。

4. 交渉でよくある失敗と対処法

失敗パターンとしてよく見るのは、まず在留資格を交渉のカードに使ってしまうことです。「他の会社ならビザのサポートをしてくれる」というような伝え方は、企業側に「条件面より在留資格の話をしている人」という印象を与えてしまい、逆効果になりやすいです。もう1つの失敗は、遠慮のしすぎで、提示額をそのまま受け入れて後から後悔するケースです。反対に、相場感を持たずに高すぎる金額を提示してしまい、交渉の土台そのものが崩れるケースも見てきました。さらに、交渉の理由を「生活費が高いから」というような個人的事情だけで説明してしまい、企業側が評価しづらい理由になってしまう失敗もあります。対処法として僕がお勧めしているのは、希望額を1つの数字で言い切るのではなく、「経験を踏まえるとこのレンジで検討いただけないか」という範囲で伝える方法です。範囲提示は、企業側にも調整の余地を残すため、話がまとまりやすいと感じています。理由づけも、生活事情ではなく職務内容・実績・市場相場という企業側が評価しやすい軸に絞ることが大切です。加えて、交渉のやり取りはメールなど文書に残る形で行うことをお勧めしています。口頭だけで進めると、後になって「言った・言わない」の食い違いが起きやすく、これは日本語力の高低に関わらず誰にでも起こりうる失敗だと感じています。

5. 自分で交渉するかエージェントを使うかの判断基準

自分で直接交渉するメリットは、企業側との温度感をそのまま伝えられることです。特に日本語でのコミュニケーションに自信がある方や、面接時の担当者と信頼関係を築けている場合は、直接のやり取りのほうがスムーズに進むことが多いです。一方、エージェントを使う場合は、相場感の把握と伝え方の代理という2つの役割を任せられるのが強みです。特に日本語での交渉に不安がある方や、複数社からオファーを受けていて条件を比較しながら進めたい方には、エージェント経由のほうが結果的にまとまりやすいと僕は感じています。どちらか一方を選ぶ必要はなく、材料整理は自分で行い、伝達だけをエージェントに任せるという併用も現実的な選択肢です。実務的には、希望レンジと根拠となる実績を紙かメモにまとめておき、それをそのままエージェントに渡すというやり方が、時間もかからず精度も落ちにくいと感じています。所要時間の目安として、材料整理には30分から1時間、エージェントへの共有には15分程度あれば十分だというのが僕の体感です。

6. 実際のケース比較:職種による交渉の進み方の違い

僕が印象に残っているケースを2つ紹介します。1つはITエンジニアの方で、前職での担当フェーズ(要件定義から運用まで)と使用言語を具体的に整理し、オファー受領の翌日に「経験を踏まえて提示額より一段高いレンジで検討いただけないか」と伝えたところ、提示額から数パーセント上振れした条件で合意に至りました。決め手になったのは、抽象的な「経験があります」という言葉ではなく、担当フェーズという具体の提示だったと感じています。もう1つは製造業で特定技能から正社員へ移行するタイミングの方で、こちらは企業側の等級テーブルがすでに固まっており、個別の交渉自体はほとんど動きませんでした。ただ、技能検定の取得を条件に次の等級評価のタイミングを早めてもらう、という形で実質的な引き上げにつなげることができました。同じ「給与を上げたい」という目的でも、交渉のレバーが職種・企業の制度によって異なるという点は、この2つのケースからもよく分かります。もう一点付け加えると、後者の方は等級評価の交渉を焦らず半年かけて進めたことで、結果的に無理な即時交渉よりも高い引き上げにつながりました。交渉には即断できるものと、時間をかけて積み上げるものの2種類があると、僕はこの2つのケースから学びました。

0.(結論)

給与交渉は、対立ではなく条件の微調整だと捉え直すことから始まります。提示額を出発点として、経験・日本語力・市場相場という3つの材料をそろえ、オファー直後という動きやすいタイミングで、範囲を示す形で伝える。企業の制度によって交渉のレバーが個別交渉なのか、資格取得や等級評価のタイミングなのかを見極めることも大切です。この型さえ持てれば、外国人材であることが交渉の壁になる場面は、僕が思うよりずっと少ないと感じています。皆さんいかがでしたでしょうか。では今日もがんばりましょう。

よくある質問

Q. 外国人が給与交渉をすると内定が取り消されることはありますか?

常識的な範囲の交渉で内定が取り消しになることは稀だと僕は感じています。企業側も条件確認は前提として受け止めていることが多いです。ただ、提示額から大きく離れた要求や、在留資格の弱み・強みを交渉のカードにするような伝え方は、企業側の印象を損ねやすく避けたほうがよいです。結論としては、根拠のある材料を1つずつ示す交渉であれば取り消しリスクは低いと考えています。

Q. 在留資格の種類によって交渉できる余地は変わりますか?

変わると僕は見ています。技術・人文知識・国際業務のように職務内容と経験が直結するビザでは、実績を数字で示しやすく交渉材料になりやすいです。一方、特定技能から正社員への転換時は、企業側の給与テーブルの枠組みがあらかじめ決まっている場合が多く、交渉余地は限定的になりやすい体感があります。ビザの種類ではなく、職務内容の証明可能性が余地の大きさを分けています。

Q. 日本語力が高くない場合、給与交渉はどう進めればいいですか?

口頭でのその場交渉にこだわらず、メールで条件を整理して伝える、またはエージェントに代理交渉を依頼する方法が現実的だと考えています。日本語力そのものは交渉の巧拙とは別軸の話で、材料の整理力と伝え方の工夫でカバーできる部分が大きいです。エージェントを使う場合も、材料は自分で用意しておくことが結果を左右します。

監修:山根 一城(株式会社ポテンシャライト 代表)

IT人材業界20年、ギークリー創業を経て現職。個人として通算4,200名のキャリア面談を実施してきた経験に基づき監修しています。本文中の年収・難易度等は独自ガイドの目安値であり、個人の経験・企業により変動します。

この記事を、eBookで持ち帰る。 本記事をスライド形式のPDF(16:9・全12ページ)に再構成しました。お名前とメールのご登録だけで、その場でダウンロードできます。
無料でPDFを受け取る →

自分の現在地を、まず知る。

「グローバルクエスト 適性診断」(無料)で、いま狙える職域タイプが分かります。個別に相談したい方はキャリア面談へ。

適性診断をやってみる → キャリア面談をする →

あわせて読む

仕事のモヤモヤ、AIに話してみませんか

転職するかどうかは、あとで決めて構いません。
「キャリアのたね」は、対話しながら引っかかりを整理して、あなたの強みを言葉にしていくサービスです。

話しはじめてみる(無料)

登録不要・無料。求人の紹介から始めることはしません。運営:ポテンシャライト